シニア世代とAI:デジタル社会で輝く新しい人生

はじめに

現代社会では、AIやデジタル技術が私たちの生活に深く浸透しています。スマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスは、若い世代だけでなく、シニア世代にとっても重要なツールとなりつつあります。しかし、急速に進むデジタル化に対して、高齢者とAIの関係はどのようになっているのでしょうか?

日本は高齢化とデジタル化が急速かつ同時に進行する珍しい国です。シニア世代のデジタル対応力を向上させ、格差のない社会を作ることは国の重点課題となっています。この記事では、シニア世代とAIの現状、課題、そして未来の可能性について考えていきましょう。

シニア世代のデジタル利用の現状

スマートフォン・タブレットの普及率

総務省の調査によると、スマートフォンやタブレットの利用率は年齢が上がるにつれて低下する傾向があります。18〜29歳では98.7%とほぼ100%に近い利用率であるのに対し、60〜69歳では73.4%、70歳以上ではわずか40.8%にとどまっています。

しかし、この数字は年々上昇しており、2023年のシニア女性のスマホ利用率は96.9%と、前年より2.6ポイント上昇しています。特にコロナ禍以降、オンラインでのコミュニケーションやショッピングの必要性が高まり、シニア世代のデジタル活用が加速しています。

SNSの利用状況

シニア層のSNS利用も拡大傾向にあります。特にインスタグラムの利用率は前年と比べて4.7ポイント上昇し、22.2%となっています。FacebookやXの利用率も上昇しており、様々なSNSに対するシニア女性の関心が高まっています。

「インスタグランマ」という言葉が生まれるほど、ファッションやライフスタイルを発信するシニア女性も増えてきました。SNSを通じて新しい人間関係を構築したり、趣味の仲間を見つけたりする方も多いようです。

オンラインショッピングの普及

ネットショッピングの利用率も2023年には52%と過半数を超え、シニア女性の2人に1人がネットショッピングを楽しんでいます。コロナ禍で一時停滞していた利用率も再び上昇しています。

家にいながら商品を比較でき、重い荷物を持ち運ぶ必要がないという利便性がシニア層にも受け入れられています。外出や旅行の機会が増えたことで、新しい洋服や小物を購入する需要も高まっているようです。

シニア世代が直面するデジタルデバイドの問題

デジタルデバイドとは

デジタル・ディバイドとは、「情報通信技術(IT)(特にインターネット)の恩恵を受けることのできる人とできない人の間に生じる経済格差」のことを指します。高齢者のデジタル・ディバイド問題は、超高齢社会の日本において特に注目されています。

デジタルデバイドの要因

シニア世代がデジタル機器を利用しない主な理由としては以下が挙げられます:

  • 「不便を感じていない」「家の電話で十分と考えている」
  • 「操作が難しい」「今さら難しいものを覚えるのに抵抗がある」
  • 「周りに教えてくれる人がいない」

特に70代以上の方々は、若い頃に携帯電話やインターネットがなかった世代であり、デジタル技術に対する心理的抵抗感が強い傾向があります。

デジタルデバイドがもたらす影響

デジタルデバイドは単なる技術の問題ではなく、社会的な問題も引き起こします:

  1. 社会的孤立: デジタル技術を使えないことで、オンラインでのコミュニケーションから取り残される
  2. 情報格差: 重要な情報へのアクセスが制限される
  3. 行政サービスの利用困難: 電子申請や電子決済などの利用ができない
  4. 健康管理の機会損失: 健康管理アプリなどの恩恵を受けられない

AIがシニア世代に与える良い影響

AIの発展は、シニア世代の生活をさまざまな面でサポートする可能性を秘めています。

健康管理のサポート

AIを活用した健康管理アプリやデバイスが普及しています。ウェアラブルデバイスは心拍数や睡眠状態をモニタリングし、異常を検知することで健康維持をサポートします。またAI診断ツールは症状を入力すると考えられる病気を提示するなど、病院に行く前の参考になります。

こうした技術により、シニア世代は自身の健康状態を簡単に把握し、早期に対処することが可能になります。

コミュニケーションの促進

AI技術は、遠隔地にいる家族や友人とのコミュニケーションを容易にします。音声アシスタントを使えば、スマートスピーカーで音声でのメッセージ送信や電話をかけることが可能です。また、簡単に操作できるビデオ通話アプリは、家族とのつながりを強化します。

特に移動が困難なシニア世代にとって、AIを活用したコミュニケーションツールは社会とのつながりを維持する重要な手段となります。

日常生活のサポート

AIは日常生活を支援するための多くのサービスを提供しています。家電の自動化により音声操作で家電を制御できることで、移動が難しいシニアにとっての利便性が向上します。また、AIを活用した監視カメラやセンサーが異常を検知し家族に通知することで安全を確保します。

最近では、AIを活用して高齢者の困りごとを解決するサービスも登場しています。例えば、「脳にいいアプリ」では、AIが高齢者の困りごとを聞き、それに基づいて地元の信頼できる事業者を紹介し、相見積もりの結果を提供するというサービスが2024年7月から開始されました。

社会参加の促進

AI技術を活用したソリューションは、シニアが社会的に孤立することを防ぎます。AIを利用したプラットフォームが、趣味や関心を共有するシニア同士の交流を促進します。シニア向けのSNSは共通の趣味を持つ仲間との出会いを提供し、オンラインイベントやウェビナー、オンライン講座に参加することで知識を広げたり新しい友人を作る機会を得られます。

AIがシニア世代に与える懸念点

AIの恩恵がある一方で、いくつかの懸念点も存在します。

AIへの依存

AIに頼りすぎると、自己の判断能力が低下し、独立性を失う危険があります。特に認知機能の維持が重要なシニア世代にとって、すべてをAIに頼ることは長期的には望ましくない場合もあります。

プライバシーとセキュリティの問題

AI技術を利用する際は、プライバシーを守ることが重要です。個人情報の管理では、利用するアプリやデバイスのプライバシー設定を確認し、必要のない情報は共有しないようにします。また、セキュリティ対策としてパスワードや認証設定を強化し、個人情報を守る対策を講じることが重要です。

シニア世代は詐欺やフィッシング攻撃の標的になりやすいため、特に注意が必要です。

技術的な障壁

AIやデジタル技術を使いこなすには一定のスキルが必要です。複雑な操作やトラブルシューティングは、デジタルに不慣れなシニア世代にとって大きな障壁となる場合があります。

シニア世代のデジタルデバイド解消に向けた取り組み

行政の取り組み

総務省は「デジタル活用環境構築推進事業」として11.4億円の予算を計上し、携帯ショップや公民館などでマイナポータルやe-TAXの使い方などのオンラインサービス利用方法の説明会を実施しています。また、東京都は「都民等のデジタルデバイド是正に関する取組」として3億円の予算を計上し、モデル事業を実施することで効果のある施策のノウハウをガイドラインとして取りまとめ、各区市町村の取組を支援しています。

民間企業の取り組み

民間企業の先進的な取り組みとして、株式会社キタムラとクラブツーリズム株式会社の共同プロジェクト「スマートフォン体験ツアー」があります。「旅行をしながら楽しく学ぶスマートフォン」をテーマに、スマートフォンを持っていない初心者を対象とした「体験型ツアー」と、スマートフォンは持っているものの不安や悩みを抱える方を対象にした「目的別講座」を展開しています。

海外の先進事例

EUでは「The ALFRED Project」という取り組みがあります。ALFREDというスマホアプリ(バーチャル執事)を活用し、高齢者の日常生活問題を解決するプロジェクトです。AIやビッグデータを活用して高齢者が興味を持ちそうなイベントをアドバイスしたり、ウェアラブルセンサーで身体状況をモニタリングしたり、ゲームやクイズで認知機能を改善するなどの機能があります。また、完全に音声で制御できるため、操作が簡単で高齢者に優しいデザインとなっています。

また「The Mobile Age project」では、高齢者と協力して、高齢者がアクセスしたい公共サービスや使用したいモバイルアプリケーションの種類、アクセシビリティとモビリティの要件を調査し、高齢者に最適なアプリケーションを開発しています。これにより、高齢者が若者と同じように電子公共サービスにアクセスできるようになります。

シニア情報生活アドバイザー制度

日本では「シニア情報生活アドバイザー制度」があります。これは高齢者がパソコンやネットワークを利用して、より楽しく活動的な生活を送れるようになることを目指した制度です。シニア情報生活アドバイザーは、パソコンやネットワークの使い方を教えるだけでなく、趣味に役立てる方法、生活を楽しく便利にする方法、社会参加のために役立てる方法などを教えるリーダーとなることが期待されています。

介護分野におけるAI活用の展望

高齢化が進む日本では、介護分野でのAI活用も注目されています。

介護業界では慢性的な人材不足を補うために、AI技術の活用や介護ロボットの導入が検討されています。AIシステムを導入することで、スタッフが手書きや手入力で処理していた事務作業が軽減されたり、利用者の見守り業務をAIの力で行うことができると、スタッフの業務負担の軽減や業務の効率化につながります。

例えば、介護施設での入居者観察ができるAIの導入が検討されています。AIを搭載したセンサーと連動し入居者の動きを察知することで、入居者の位置情報や体温・心拍数などを検知する他、起床やトイレのタイミング、食事の量、転倒などの危機管理といった情報を24時間把握することが可能になります。これにより、施設スタッフの見回り業務がAIによってサポートされ、より質の高いケアに集中できるようになります。

シニア世代がAIを活用するためのポイント

デジタルリテラシーの向上

シニアがAIを適切に活用するためには、教育とサポートが重要です。シニア向けのワークショップやセミナーを通じてデジタルリテラシーを向上させ、AI技術の基本を学ぶ機会を提供することが必要です。

家族のサポート

家族が積極的に関与し、操作方法を教えることで、デジタルデバイドを解消できます。シニア世代が安心してデジタル技術を活用するためには、身近な家族のサポートが大きな助けとなります。

シニア向けのデジタルサービスの設計

「The Mobile Age project」のように、高齢者と協力して、高齢者がアクセスしたい公共サービスや使用したいモバイルアプリケーションの種類、アクセシビリティとモビリティの要件を調査し、高齢者に最適なアプリケーションを開発することが重要です。シニア世代の視点に立ったユーザーインターフェースの設計が求められています。

まとめ:シニア世代とAIの明るい未来へ

AIとデジタル技術は、適切に活用すればシニア世代の生活を豊かにする大きな可能性を秘めています。健康管理、コミュニケーション、日常生活のサポート、社会参加の促進など、さまざまな面でシニア世代をサポートし、より自立した充実した生活を送るための強力なツールとなりえます。

一方で、デジタルデバイドの問題は依然として存在しており、すべてのシニア世代がAIの恩恵を受けられるわけではありません。この格差を解消するためには、行政、民間企業、地域社会、家族など、さまざまな主体による包括的な取り組みが必要です。

シニア世代のデジタル意識は大きく変化しつつあり、生活の満足度向上や幸福を目指す「Well-Being」の考え方に対してデジタルがもたらす価値も注目されています。調査によると、「社会のデジタル化」に対して、シニア世代の半数以上が期待している一方で、3割強は期待していないことが分かっています。

今後はシニア世代の多様性を理解し、それぞれのニーズや状況に応じたサポートを提供していくことが重要です。AIとシニア世代の関係性は、これからさらに発展していくことでしょう。私たち一人ひとりが、シニア世代がデジタル社会で輝けるよう、手を差し伸べていきましょう。

参考文献

  1. 総務省 令和3年版 情報通信白書「デジタル活用支援」
  2. 日本総研「高齢者のデジタル・ディバイド問題の現状と、自治体の今後の取り組みの方向性示唆」
  3. 野村総合研究所「シニア世代のデジタル化に関する意識・行動と課題」
  4. SeamLess株式会社「AIがシニアに与える良い影響と悪い影響」
  5. アーツアンドクラフツ株式会社「高齢者向けのデジタルサービスの最先端」
  6. ハルメク・エイジマーケティング「シニアのデジタル利用状況」
  7. 株式会社ベスプラ「AIを活用し、高齢者の困りごとを解決サポート」